きまぐれキッチン。
当店は、どんなお客様でもご歓迎致します。
老若男女でも動物でも。もちろん、人殺しでも。
しかしここは、料理を食べる所です。
下品なことは、お止め下さい。
なにか御座いましたら、この私になんなりとお申し付
け下さい。 東雲 咲九夜
―似てない双子―
<1>
どこかの町の家に双子の兄妹が居た。
姉の三森 夏樹(みもり なつき)と
弟の三森 夏木 (みもり なつき)。
兄妹は、一卵性で大概の一卵性の双子はそっくりで見
分けがつかないが、この双子は養子も性格もまったく似ていなっかた。
二人の名前をひらがなやカタカナで書いたり名前で呼
んだりすると、どちらが姉の名前か弟の名前か分からない。
二人は、互いを違う名前で呼ぶ
夏樹を夏樹(なじゅ)
夏木を夏木(かぎ)
と。二人は、何時も一緒にいた。別に一緒の居たいわ
けでもなく、居たくないわけでもない。ただ、なんとなくそうなった。
夏樹と夏木は、好きがなければ、嫌いもない。何事に
対しても無関心で、それでいて夏樹はいつもムスッと
した顔で世の中を視て、夏木はいつも笑ったような顔で他人(ひと)を視る。
二人の、母は男と付き合っては別れ、付き合っては別
れ、それを繰り返しているうちに出来た子供が夏樹と夏木。
気まぐれで生んだ子供に愛はなく、適当な名前を付けて育てた。
育てたと言っても、食べる物を与えるだけ。
二人は、母親に対しても無関心だった。好きじゃない
し、嫌いじゃない。自分達を生んだことを感謝しないし、憎まない。
<2>
「んっ?なんだこれ。」
地面に落ちている紙を拾う夏木。
「これ商店街の福引券だ。今日は、いいことありそうだね。」
と、福引券をピラピラ振りながら隣の夏樹に言う。
「そうかしら。」
愛想なく答える。夏木は、気にせずにつづけた。
「あとで、商店街に行ってみよお。」
二人は、母が男と昼前に出かけたため母が置いて
いったお金を持って昼食を食べに商店街が並ぶ道
の手前にある細くて長い小路を真直ぐ行って左に
曲がり、右に曲がりまた右に曲がった処にある店に行こうとしていた。
夏樹と夏木は、この店を気に入っていた。
好きも嫌いもない二人には、珍しいことだ。
理由は簡単だった。人が〔二人にとっては他人(ひと)だが〕来ないから、それだけ。
もともと人が通らない道に、こんな細い小路在るこ
とすら気づかない。まして気づいたとしても、こんな入り組んだ道通らない。
<3>
二人は、小路に入ろうとしていた。
商店街の方に、母親が見えたが気にせずに小路に入った。
少し歩くと、男が立っている。男は聞いてきた。
「君達は・・・・、お母さんが好きかい?」
「どちらでも無い。けど、今あなたが欲しい答えをあげる。」
くすっ。と、笑い夏木は言った。
「嫌いだよ。大嫌い。」
男は、薄暗く笑みを浮かべて物々と言った。
「そうか。そうか。ははっ・・・はっ。」
「おじさん。」
夏樹が言った。
「これは、運命でも偶然でもないよ。全部、必然。
だから、おじさんが選ぶんだよ。この先の選択も、
おじさんが選ぶ。それだけ憶えておくといい。」
男は、意味を知らないままフラフラと違う道を行った。
夏樹と夏木は、クスクスと笑いながらボソッと言った。
「この選択は、うまくない。」
二人は、また歩き始めた。
「キャ――――!!!」
商店街に続く小路の先で悲鳴が聞こえ、女が刺されて死んだ。
「他人(ひと)ってくだらない。」
夏木が言うと、
「世の中もそうよ。」
と、夏樹がいった。
<4>
二人は、[きまぐれキッチン]と看板に書かれた店に入った。
カランッと音が鳴り、ドアが開く。同時に、
「いらっしゃいませ。」
と言う声が聞こえ、コーヒーの香りが広がる。
「こんにちは。夏樹さん、夏木さん。」
先ほど「いらっしゃいませ。」と言った、[きまぐれキッチン]
オーナーの東雲 咲九夜(しののめ さくや)【男】がやわらかい笑顔で出迎えた。
「こんにちは。咲九夜さん。」
夏木は、返事を返した。
東雲は、
「今日は、何かありましたか?」
と、聞きながら、磨いていたグラスに水を注いでカウ
ンターに座る夏樹と夏木の前に二つ置いた。
「ありがとう。」
と夏樹が言い、
「今日は、お母さんが死んだわ。」
と、普通に続けた。
「あとね、変なおじさんに「お母さんは、好き?」っ
て、聞かれた。変なおじさんはね、お母さんの元恋人なんだ。」
夏木が水を飲みながら言う。
「ま、お母さんを殺したのも、そのおじさんだけど。」
「そうですか。その人は、良くない選択をしましたね。
今日は、何にします?今日の、おすすめは[トマトと
ツナの和風パスタ]ランチセットですが。」
「じゃあ、それとエスプレッソ。」
「ローズヒップ。」
「受けたまわりました。夏木さんはパスタセットとエ
スプレッソ。夏樹さんはパスタセットとローズヒップですね。」
<5>
「ふぅ。ごちそうさま。」
「美味しかったわ。」
「ありがとうございます。」
一通り食べ終わって、食後のコーヒーを飲み始める。
気づくと店内の端の席に一人若い客が居た。細めの身
体つきで、綺麗な顔立ちだった。
「もう一人居たんだ。」
「珍しいわね。」
「はい。お二人が来る少し前から。」
「ま、此処で会ったのも何かの縁だし。」
そう言うと、夏木は若い客の方歩いてへ行った。
「お兄さん、これあげる。」
「・・・・・ありがとう。」
差し出された紙を、疑問に思いながら受け取る。
「商店街の福引券?」
若い客に夏木が渡したのは、商店街の福引券。
「帰りにでもやって見て下さい。」
「あ、ああ。」
そして、カウンターの方に夏木は戻り、
「夏樹そろそろ行こうか。」
と夏樹を呼んだ。
夏樹は立ち上がり東雲に会釈をした。
「ありがとうございました。又のお越しを。」
東雲が言うと、カランッとドアが開いて閉まった。
END.